『ティムティム?』
【ブワセック!】
『お話を始めよう。これは偽の島に辿り着いた、ある怪人と、彼を取り巻く人々の物語』

第三十七夜:サマーバケーション


「僕、……で、デートに誘ってるんだからね」

 もじもじと鉤爪同士を擦り合わせながら大きな図体を落ち着なく揺らしている怪人の目に、目の前の少女───ネアリカの紅い目が見開かれる様が映った。
 意外、だったのだろうか。思っても見なかったとばかりの反応に項垂れかけて、小さく零れた笑みにちらりと上目に伺う。

「わぁ、デートに誘われちゃった。ふふ、どうしよっかなー」

 いっちょ前に色気付いちゃって……などと悪戯っぽく笑う彼女の反応に安堵の溜息が零れた。良かった、嫌がられては居ないみたい。自然と力が篭り、いからせていた肩がへなりと降りる。

「んー……そうだねぇ、あんまり遅くなると駄目だから……午後から二人でちょっと遠くまで行ってみよっか。 乗せてってくれるんだよね?」

「うん!うん、うん、任せてよ、……ははっ、やった、約束だよ、約束だからね、ネアリカちゃん!」

────飛び上がらんばかりに喜び、何度も指きりを強請っては念を押し、分かれたのはつい先日の事。





「で、さあ、聞いてる?黒ちゃん」

 コテが翻る度にキャベツやもやしが舞い、麺に絡んで行く。
 一時も休まる事なく動く二本の腕が鉄板の上に作り上げて行くヤキソバの香りと、じゅうじゅうと音を立てて焦げるソースの香ばしい香りの向こうで、ねじり鉢巻姿の黒鳶は此方をちらりと振り向いた。

「だああから、フレちゃん、俺ァよぉ、今バイト中だって!───へい、お待ち!」

 出来上がったヤキソバを乗せたトレイを客に差し出す合間を待つのももどかしく、そわそわと足踏みを繰り返しているフレグランスの姿は、商売の邪魔にしかならない。
 海水浴場の客を当て込んだ屋台は盛況で、ゆっくりと話をしている暇など無いのだ。

「わかった、僕黒ちゃんの手伝いするからさ!」

 だから早くお客さん片付けてしまおう、と失礼な事を言いながら黒鳶の姿を写し取りつつ裏手へと回り込んだ。

「焼きながらでいいから、聞いてよね、あのね、だから女の子とデートするのに、
 何かコツとかさ……何かないかな、ね、黒ちゃん」




【黒ちゃんは何て言ってたの?】
『それはね……』

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『はつかねずみがやって来たよ、今夜のお話はこれでお終い。』

次回──第三十八夜:真夏の夜の夢